富士山に行こうかなぁ、彼女はそう言った。
夏の間はマイカー規制のある富士も、9月に
は登れるようになる。そこで珈琲でも淹れよ
うか、下で湧き水を汲み上で珈琲を飲むのが
仲間内で流行り出している。彼女は笑った。
興味のある何人かを誘い、週末に決行する。
目覚めたのは5時、完全に遅刻だ…珈琲とお
菓子は彼らに託したが、朝食は俺の担当だ。
バーナーとボンベをリュックに詰め高速を飛
ばす。ミラー越しに空がやっと白み始めた。
中央道を分岐し河口湖に向かうと、コーナー
の先に富士が現れる。晴天に映える富士は、
信仰の山であることを再認識させる。晴天⁉︎
それは嬉しくも残念な誤算だ。五合目で雲海
を見ながら珈琲飲むのがコンセプトだった。
道の駅で水を汲み、林間のワインディングを
駆け上がる。晴れていた山には次第に雲がか
かり、駐車場に着く頃には眼下には雲海が広
がっていた。先陣は既に目覚めの一杯を飲み
終えている。お腹空いたぁ、彼女は笑った。