寝ぼけた頭で、寝床から這い出した。まずは 一服つけないと俺の朝は始まらない。こんな ご時世だ、部屋の中は禁煙。ベランダに続く ドアを開ける。時刻は5時、日の出は遅く、 夜が明けようとしている。涼しい風が頰に触 れた。今日は秋空になるな、そんな気がした。 煙草を箱に戻して部屋に帰り、積んだままの 洗濯物から薄手のデニムを引き出す。プロテ クターは無し、足元はスニーカー。マジメな ライダーには怒られるなと思いつつ、ウサギ 柄のヘルメットを被り、キックを踏み下ろす。 40mmの小さなピストンが目覚め、1分間 に2,000回もの上下運動を繰り返す。ギ アを1速に入れると、家族を起こさないよう に、静かにクラッチを繋ぐ。田んぼの畦道を 抜け、用水路の橋を越え、土手の側道を登り きった所でエンジンを切る。夜明け前の30 分、その時間から変わりゆく空の色を眺める。 雲が焼け、東の空がゆっくり明るくなる。遠 くに鳥の声を聴きながら、煙草に火を点けた。 https://www.instagram.com/p/BncI35QHQeU/?utm_source=ig_web_button_share_sheet